スピリチャルでアートな日々、時々読書 NY編
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オペラは踊る4:フランス発オペラ「ハムレット」は何だか少し変である。
2010年4月1日木曜日
メトロポリタン・オペラの「ハムレット」は、曰く付きの作品である。ハムレットと言えば、シェークスピアの4大悲劇の一つで、英国人の誇りとする傑作の一つである。英語で書かれた脚本の中ではおそらくもっとも世界で上演された回数の多い作品ではないだろうか。
ところが、このオペラ、実は、フランス語なのである。もちろん、作曲もフランス人のアンブロワーズ・トマス。で、内容は原作に忠実かというと、実は、結構、適当に改編されているのである。解説によると、「当時、国際社会において文化の中心という自負を持っていたフランス人は、英国という辺境の地で書かれた出来の悪い脚本(ハムレットのことです!)を何とか改善して、フランスの文化の粋を集めたオペラにしあげてやったのだと豪語していた」とのこと。ということで、「あれ、ハムレットってこんな話だったっけ?」という改編がそこかしこにある不思議な作品に仕上がっている。
もちろん、そんな「暴挙」を誇り高い英国人が許すはずもなく、お陰で、この作品は、フランスでは結構ヒットしたけれど、米国も含めてアングロ・サクソン圏では不評だったとのこと。別に僕もシェークスピアンではないけれど、確かに、これじゃ、シェークスピアの戯曲は台無しじゃないと思う部分が多々ありました。特に最後、ハムレットが復讐を遂げる場面で、ハムレットの父王の亡霊が登場して、ハムレットに復讐を促すのみならず、戦闘になったらハムレットの復讐に加勢するところはずっこけました。怪奇映画じゃあるまいし、そりゃないでしょーよ、と思わず突っ込んでしまいました。周りの観客も、「あれ?」という感じ。
でも、フレンチ・オペラらしく、曲は繊細で美しかったです。一番の聞かせどころは、たぶん、オフィーリアのソロ。これは本当に素晴らしいアリアでした。でも、ここでも原作は改変されていました。オペラでは、オフィーリアは、ハムレットに冷たくされて、失意の中、徐々に絶望的になって、最後にナイフで自らの胸を刺すのです。あれ、オフィーリアって、狂気に陥って、野原で花を摘んでいるうちに川に落ちておぼれ死ぬんじゃなかったっけ?という疑問を頭の片隅にうずかせながらも、いたいけないオフィーリアの死の間際の悲しいアリアに観客は感動して、オフィーリアが倒れ伏した後に、拍手喝采となりました。ところが!!!!なんと、拍手が鳴りやむと、ナイフを胸に突き立てたはずのオフィーリアがむっくりと起き上がり、再び、アリアを歌い始めるではありませんか!?。彼女は、アリアを歌いながらゆっくりと舞台の奥に退き、舞台から見えなくなります。やがて人々の騒ぐ声で彼女が川に落ちたことを観客は知らされます。なるほど、無理矢理原作にあわせるために1回倒れてからまた生き返ったのですね。そこでぼくはようやくニューヨークタイムズの評に「オフィーリア、お前はゾンビか!」というタイムズらしからぬべたな突っ込みが見出しとなっていたことの意味を悟ったのでした。いやはや。
愛を語らう、ハムレットとオフィーリア。白い服が似合いますね。でもそんなオフィーリアがゾンビになるなんて・・・(笑)
オペラ「ハムレット」のポスター。