スピリチャルでアートな日々、時々読書 NY編
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ゾクチェン・コミュニティについてのささやかな感想
2008年5月26日月曜日
ということで、金曜日の夜から週末にかけてチョギャル・ナムカイ・ノルプ師のゾクチェン・リトリートに参加してきました。私のブログを読んでいただいて、少しは感じがつかめていただけたかと思います。ここまで読んできていただいた方はどのような印象を持たれたでしょうか。
私の第一印象は、すごく面白そうなところだけれど、批判も多いだろうな、というものです。
ゾクチェン・コミュニティを批判するポイントは幾つかあります。
まず第一に、主催者であるナムカイ・ノルプ師が還俗しておられると言うこと。すでに気づかれている方もおられると思いますが、私は、師のことをリンポチェとはお呼びしていません。確かに、ナムカイ・ノルプ師は、幼少の頃に転生活仏の認定を受けているので、リンポチェとお呼びしても良いのですが、師はイタリアに移られてから還俗され、現在は妻子をお持ちです。だから、厳密には、リンポチェではないと言えます。そして、この点を捉えて、ゾクチェン・コミュニティは、所詮、俗人が主宰するものでしかなく、正統なニンマ派の教えを継承しているわけではない、と批判する人は確実にいるでしょう。
これと関連して、前回のブログで紹介したとおり、ゾクチェン・コミュニティでは、きちんとした許可灌頂の儀式も行っていません。また、本来であれば、灌頂を受けたものにしか見せてはいけない様々な実践のムドラーやマントラをマニュアルの形でどんどん公開しています。この点を捉えて、チベット仏教の戒律に反すると批判する人もいるでしょう。
さらに言えば、ゾクチェン・コミュニティがベースとするTunなどの修法や、ヤントラ・ヨガ、ヴァジュラ・ダンスの正統性やオリジナリティを疑問視する人もいるかと思います。私には、このことを判断する知識も能力もないのですが、「ヤントラ・ヨガは、かなり素朴なヨガの技法にしか過ぎず、またヴァジュラ・ダンスは、気功法や太極拳をベースにした集団舞踊でしかないので、ゾクチェン・コミュニティはニンマ派の教えを伝えているわけではないのだ」、と言う批判もあり得ると思います。ついでに言えば、ナムカイ・ノルプ師のシャンシュン王国に関する歴史的な研究の妥当性を批判する人もいるのではないかと思います。
私は、こういう批判はあり得ると思いますし、また、その批判には一定の妥当性があると思います。
リトリート終了後に、オークションが開催されました。収入は、ナムカイ・ノルプ師が立ち上げたASIAとシャンシュン・インスティチュートに寄付されるとのこと。ナムカイ・ノルプ師の直筆のチベット書道から、白ターラ菩薩のタンカまで、様々なものが出品されていました。
でも、一方で、次のように考えることも出来ます。
妻子を持つと言うことは、チベットの修行者の世界ではそれほど珍しいことではありません。民間のヨギー達には結構妻帯者がいます。また、無上ヨガタントラの修法には、異性のパートナーが不可欠です。妻子が修行の妨げだという主張は、もちろん、仏教が成立した時点からの論点です。しかし、それはしょせん伝統的なチベット仏教組織の側からの批判でしかなく、少なくとも無上ヨガタントラの修行者の中では、必ずしもその批判は当たらないような印象を持ちます。
それから、許可灌頂を簡素化し、実践法を公開する点についても、前回のブログにも書きましたが、教えを安易に伝えることの危険性はもちろんあります。でも、逆に、そのように主張する伝統的なチベット仏教界は、教えを出し惜しみし、商品化しているのではないかとの反論が可能なような気がします。許可灌頂や実践方法の伝授を重要な収入源とするチベット仏教界にとって、ナムカイ・ノルプ師の手法は、「商売を脅かす危険なもの」なのかもしれません。しかし、我々のように、それほど頻繁に許可灌頂を受けたり実践方法の伝授を受けるだけの財力も時間もない在俗の修行者にとっては、ナムカイ・ノルプ師のような存在はとてもありがたい存在です。
最後に、実践方法についても、忙しい日常の中で、少しでも時間を見つけて実践を続けたいと思う人には、ナムカイ・ノルプ師の提唱する教えは、実践が気軽に出来る魅力的なものに見えます。それは、必ずしもチベット仏教の正統ではないかもしれません。でも、ではチベット仏教の正統な修法が本当に正しいのでしょうか。チベット仏教の伝統的な修法は、山中に籠もって数年間修行に専念できる人には妥当であっても、忙しい現代人の目から見ると、かなり無駄な部分があるように思えます。もう少し、エッセンスだけを集中的にやりたいというのが在俗修行者の希望です。そう言うニーズにナムカイ・ノルプ師の教えはうまくマッチしています。
ということで、私は、ナムカイ・ノルプ師が主宰するゾクチェン・コミュニティに好感を持ちました。実際、会場に集まった人たちの中には、わざわざイタリアからナムカイ・ノルプ師を追いかけてやってきた人もいましたし、はるかポーランドやロシアから来た人にも私は会いました。それだけ、彼の教えは世界的に広がっており、また人を惹きつける魅力を持っているのでしょう。
再びオークション風景。ナムカイ・ノルプ師自身が、オークションに出される景品を解説してくださいます。会場は、結構和やかな雰囲気でとても楽しめます。
さらに、私が気に入ったのは、ナムカイ・ノルプ師の、チベット仏教の教えを伝え、世界を良くしていきたいという無私の精神と、それを実現するバイタリティです。
すでにご紹介したとおり、ナムカイ・ノルプ師は、チベット仏教と文化、またその基礎となった古代シャンシュン王国についての膨大な研究業績があります。(試みに、チベット仏教の書籍を英語で積極的に紹介しているSnow Lionと言う出版社のウェブサイトでナムカイ・ノルプ師の本を検索すると、35冊がヒットしました!)また、実践者として、チベット仏教を世界中に広め、ゾクチェン・コミュニティのネットワークを作り上げました。
これに加えて、彼は、チベットの文化を保存・継承するために、シャンシュン・インスティチュートを立ち上げています。米国のシャンシュン・インスティチュートでは、チベット仏教の実践方法と密接に関連しているチベットの伝統医学について英語で学ぶコースが立ち上がっているそうです。
また、チベットを中心としたアジアのコミュニティ、特に子供を支援するためのNGOである、ASIAと言う組織もナムカイ・ノルプ師の主導により立ち上がっています。ベースはイタリアにあるようですが、開発協力や開発教育など、様々な活動を行っており、現在は、中国四川省の地震被害救済に取り組んでいるようです。
これだけの活動を組織するだけでも、並大抵のことではないと思います。また、すべてが人々の救済のために捧げられているという点で、まさにナムカイ・ノルプ師は、菩薩道を実践しているように私には感じられました。たとえ僧侶であっても私利に走る人がいることを思えば、ナムカイ・ノルプ師のこの活動は、還俗の身であったとしても、仏教徒にふさわしい活動だと思います。
ということで、これからしばらくはゾクチェン・コミュニティの活動に触れていきたいと思います。また、このブログでご紹介することがあるでしょう。ご期待ください。
ナムカイ・ノルプ師が立ち上げたNGO、ASIAのパンフレット。